事前学習:第5章 励起作用を利用した検出器
第5章は、シンチレーション検出器が中心です。
覚える量は多いですが、「どのシンチレータが、何線に強いか」を整理すると一気に解きやすくなります。
ここでは、試験前に確認すべきポイントをかなり詳しくまとめています。
1. シンチレーション検出器の基本
シンチレーション検出器は、放射線が物質にエネルギーを与えたときに生じる
励起作用を利用する検出器です。
| 項目 | 整理 |
| 利用する作用 | 励起作用 |
| 発生するもの | シンチレーション光 |
| 信号変換 | 光電子増倍管、フォトダイオードなどで電気信号に変換 |
| エネルギー測定 | 発光量が吸収エネルギーにおおむね比例するため可能 |
- シンチレーションとは、放射線により励起された物質が脱励起するときに発する微弱な発光です。
- シンチレータで生じた光は、光電子増倍管などで電気信号に変換されます。
- 出力パルスの高さは吸収エネルギーに関係するため、波高分析によりエネルギースペクトルが得られます。
シンチレーション検出器=励起作用+発光+光電子増倍管+波高分析、という流れで覚えます。
2. シンチレータの大分類
シンチレータは大きく
無機シンチレータと
有機シンチレータに分けられます。
| 分類 | 代表例 | 特徴 | 主な用途 |
| 無機シンチレータ | NaI(Tl), CsI(Tl), ZnS(Ag), LiI(Eu), BGO, LSO, GSO | 発光量が多く、γ線・X線測定に適するものが多い。発光減衰時間は比較的長いものが多い。 | γ線測定、X線測定、PET、中性子測定、α線測定 |
| 有機シンチレータ | アントラセン、スチルベン、プラスチック、液体シンチレータ | 発光減衰時間が短く、高速計数に向く。低原子番号でβ線や高速中性子に利用される。 | β線測定、高速中性子測定、低エネルギーβ線放射能測定 |
無機=γ線・X線に強い。有機=速い、β線や高速中性子に強い、というイメージです。
3. 無機シンチレータの種類
主任者試験・国家試験では、シンチレータ名と用途の組合せがよく問われます。
| シンチレータ | 活性剤 | 特徴 | 主な測定対象 |
| NaI(Tl) | Tl | 発光量が多い。発光波長約410 nm。潮解性あり。 | γ線・X線 |
| CsI(Tl) | Tl | NaI(Tl)より発光減衰時間が長い。α線測定にも使われる。 | γ線、α線 |
| ZnS(Ag) | Ag | 白い粉末状。α線測定に適する。 | α線 |
| LiI(Eu) | Eu | 潮解性あり。6Li反応を利用して中性子測定に用いる。 | 熱中性子 |
| BGO | なしまたは自己活性型 | Bi4Ge3O12。高密度・高実効原子番号。潮解性なし。 | PET、γ線 |
| LSO/GSO | Ce | PET用。BGOより時間特性に優れるものが多い。 | PET |
活性剤の対応:NaI(Tl)・CsI(Tl)はTl、ZnS(Ag)はAg、LiI(Eu)はEu、LSO/GSOはCeが重要です。
4. NaI(Tl)シンチレーション検出器
NaI(Tl)は最も代表的なγ線測定用シンチレータです。
- 発光量が多く、γ線測定に広く用いられます。
- 発光波長は約410 nmです。
- 潮解性があるため、密封して使用します。
- Ge半導体検出器に比べ、エネルギー分解能は劣ります。
- 一方で検出効率は高く、サーベイメータやウェル型検出器などにも用いられます。
| 項目 | ポイント |
| 用途 | γ線・X線測定 |
| 発光波長 | 約410 nm |
| 潮解性 | あり |
| 冷却 | 液体窒素冷却は不要 |
| エネルギー分解能 | およそ5〜10%程度 |
NaI(Tl)=γ線、発光波長410 nm、潮解性あり、冷却不要、Geより分解能は悪い。
5. ウェル型NaI(Tl)検出器
ウェル型NaI(Tl)検出器は、試料を井戸状の穴に入れて測定する検出器です。
- 試料を囲むように測定できるため、幾何学的検出効率が大きいです。
- 試料容積や測定位置により計数率が変化します。
- パルス波高分布のデータをもとにROIを設定し、計数値を決めます。
- 幾何学的効率が高いため、カスケードγ線でサム効果が起こりやすくなります。
ウェル型=効率が高い。ただし試料容積・位置依存性、サム効果に注意です。
6. α線・中性子に用いるシンチレータ
γ線用だけでなく、α線や中性子に使うシンチレータもよく出ます。
| 測定対象 | 代表的シンチレータ | 覚え方 |
| α線 | ZnS(Ag), CsI(Tl) | ZnS(Ag)は白い粉末状。α線サーベイメータで重要。 |
| 熱中性子 | LiI(Eu) | 6Li反応を利用する。 |
| 高速中性子 | プラスチックシンチレータ | 水素を含み、反跳陽子を利用する。 |
α線=ZnS(Ag)。熱中性子=LiI(Eu)。高速中性子=プラスチック。
7. BGO・LSO・GSOとPET
PET装置では、消滅放射線511 keVを効率よく検出するため、高密度で時間特性の良いシンチレータが用いられます。
| シンチレータ | 特徴 |
| BGO | Bi4Ge3O12。高密度・高実効原子番号。発光量はNaI(Tl)より小さいが、検出効率が高い。 |
| LSO | 発光減衰時間が短く、PETで用いられる。Ce添加が関係する。 |
| GSO | PET用シンチレータの一つ。Ce添加が関係する。 |
PET用=BGO・LSO・GSO。BGOは高密度・高Z、NaI(Tl)より発光量は小さい。
8. 有機・プラスチックシンチレータ
有機シンチレータは発光が速く、高速計数に向きます。
- アントラセン、スチルベン、プラスチックシンチレータが代表例です。
- 発光減衰時間が短く、高計数率測定に向きます。
- プラスチックシンチレータはβ線測定に用いられます。
- 水素を含むため、高速中性子の測定にも用いられます。
- γ線測定は可能ですが、エネルギー分析は困難です。
有機=速い。プラスチック=β線・高速中性子。γ線エネルギー分析は苦手です。
9. 液体シンチレーションカウンタ
液体シンチレーションカウンタは、
3Hや
14Cなど低エネルギーβ線放出核種の放射能測定に非常に重要です。
| 項目 | 整理 |
| 主な測定対象 | 3H, 14Cなどの低エネルギーβ線 |
| 特徴 | 試料とシンチレータを混合できるため、幾何学的効率が高い |
| 光検出 | 光電子増倍管を用いる |
| 雑音低減 | 2本の光電子増倍管と同時計数回路 |
| 重要な補正 | クエンチング補正 |
| 補正法 | 外部標準線源法 |
| 蛍光体 | PPO |
| 波長シフタ | POPOPなど |
- クエンチングには化学クエンチングや色クエンチングがあります。
- ヘモグロビンなど色のある物質が混入するとクエンチングが大きくなります。
- フェーディングは液体シンチレーションではなく、フィルム、IP、TLDなどで問題になります。
液シン=低エネルギーβ線、同時計数回路、クエンチング、外部標準線源法、PPO、POPOP。
10. 光電子増倍管
シンチレーション光は非常に弱いため、光電子増倍管で増幅します。
| 部分 | 役割 |
| 光電陰極 | 光を光電子に変換する |
| 集束電極 | 光電子をダイノードへ集める |
| ダイノード | 二次電子放出により電子を増倍する。10〜15段程度が代表的。 |
| 陽極 | 増倍された電子を集めて信号を取り出す |
- 光電子増倍管では、電場により電子が加速・増倍されます。
- 光電陰極やダイノードには、CsとSbの金属間化合物が用いられることがあります。
- ダイノード10段、二次電子放出能4なら増倍率は約410 ≒ 106です。
光電陰極→集束電極→ダイノード→陽極。光電陽極ではありません。
11. 波高分析とスペクトル
シンチレーション検出器では、波高分析器によりエネルギースペクトルを作ります。
| ピーク | 意味 |
| 全吸収ピーク | γ線の全エネルギーが検出器内で吸収されたピーク |
| 後方散乱ピーク | 検出器外で後方散乱されたγ線が検出器に入射してできるピーク。高エネルギーγ線では約0.2 MeV付近。 |
| サムピーク | 2本以上のγ線がほぼ同時に検出され、エネルギーの和として現れるピーク |
| シングルエスケープピーク | 電子対生成後、511 keVの消滅放射線1本が逃げたピーク。Eγ - 0.511 MeV。 |
| ダブルエスケープピーク | 511 keVの消滅放射線2本が逃げたピーク。Eγ - 1.022 MeV。 |
3.09 MeVなら、シングルエスケープ約2.58 MeV、ダブルエスケープ約2.07 MeVです。
12. 試験で狙われるまとめ
| キーワード | 答え方 |
| NaI(Tl) | γ線、発光波長410 nm、潮解性あり、冷却不要 |
| ZnS(Ag) | 白い粉末状、α線測定、α線サーベイメータ |
| LiI(Eu) | 熱中性子測定、潮解性あり |
| BGO | PET、高密度、高実効原子番号、潮解性なし |
| プラスチック | β線、高速中性子、発光減衰時間が短い |
| 液体シンチ | 3H、低エネルギーβ線、クエンチング、外部標準線源法 |
| 光電子増倍管 | 光電陰極、ダイノード10〜15段、陽極 |
| 波高分析 | SCA、MCA、ADC、全吸収ピーク、後方散乱ピーク、エスケープピーク |
12-2. 追加過去問で狙われる細かいポイント
後から確認した問題では、次の細かい知識も狙われていました。
| 項目 | 整理 |
| CsI(Tl) | 潮解性がある。NaI(Tl)より発光減衰時間が長い。 |
| LSO | PET用シンチレータ。熱ルミネセンス線量計ではない。 |
| ZnS(Ag) | α線サーベイメータ。γ線スペクトル測定専用ではない。 |
| LiI(Eu) | 熱中性子測定。6Li(n,α)3H反応が関係する。 |
| 液体シンチ | 3H、14C、クエンチング、外部標準線源法、PPO、POPOP。 |
| 光電子増倍管 | 光電陰極、ダイノード、陽極。増倍率は105〜107程度が多い。 |
| スペクトル | サムピーク、後方散乱ピーク、シングル/ダブルエスケープピーク。 |
| 蛍光減衰時間 | 最大蛍光強度から1/eに減少するまでの時間。短いほど高計数率測定に有利。 |
12-3. 追加修正ポイント:NaI(Tl)、ZnS(Ag)、液体シンチ、光電子増倍管
今回の確認で、次の内容を追加で押さえる必要があります。
| 分野 | 重要ポイント |
| NaI(Tl) | γ線測定用。実効原子番号は約50。減衰時間は約230 ns。潮解性があるためAl容器などに封入される。 |
| ZnS(Ag) | α線に対する蛍光効率はNaI(Tl)より高い。α線測定に適するが、エネルギー測定には不向き。 |
| プラスチックシンチレータ | 有機シンチレータ。β線・高速中性子測定に用いる。減衰時間は約2.5 ns。 |
| 液体シンチレータ | 有機シンチレータ。自己吸収が小さく、4π計測に近い高効率測定が可能。減衰時間は約3.5 ns。 |
| 液体シンチのクエンチング | 化学クエンチング、色クエンチング、酸素クエンチング、濃度クエンチング。 |
| クエンチング補正法 | 効率トレーサ法、試料チャネル比法、外部標準線源法、内部標準線源法。 |
| 液体シンチとチェレンコフ光 | 高エネルギーβ線放出核種ではチェレンコフ光を利用できる。 |
| 光電子増倍管 | 内部は真空。地球磁場の影響を受ける。ミューメタルで磁気遮蔽する。印加電圧は約500〜1500 V、代表的に約1000 V。 |
| ノイズ除去 | 液体シンチレーションカウンタでは2本の光電子増倍管と同時計数回路によりノイズを減らす。 |
12-5. エネルギー分解能とNaI(Tl)スペクトル
NaI(Tl)検出器の問題では、エネルギー分解能とスペクトルピークの読み取りがよく問われます。
| 項目 | 整理 |
| エネルギー分解能 | R = ΔE/E × 100% |
| ΔE | 全吸収ピークの半値幅(FWHM) |
| 良い分解能 | 半値幅が狭く、Rの値が小さい |
| NaI(Tl) | エネルギー分解能は5〜10%程度 |
| Ge半導体検出器 | エネルギー分解能は約0.2%程度 |
| 半値幅のエネルギー依存 | 統計ゆらぎを考えると、半値幅ΔEはおおよそ√Eに比例する |
| 分解能のエネルギー依存 | R = ΔE/E なので、ΔE ∝ √EならR ∝ 1/√E |
| 60Co | NaI(Tl)でも1.17 MeVと1.33 MeVの2本の全吸収ピークとして分離して確認できる |
「ピークが高い」は、ピーク位置なのか計数なのかが曖昧になりやすい表現です。問題では「ピーク位置」「計数」「ピーク面積」を区別しましょう。